2009年10月14日

37.探しもの


【ものかきさんに100のお題。】『37.探しもの』

毎回駄文を読んでくださり、ありがとうございます!
とっても嬉しいです。
それを励みに、頑張って精進していきたいと思っています。

今回は(も?)「身代わり伯爵」シリーズより、リヒャミレです。
シアラン編後どころか、その後、少し未来設定です。
『2.温度』と同じく、シアラン編後は結婚しているというぶっとんだ(?)設定ですw




それでは、『続きを読む』から、お願いします♪





 誰かが泣きそうになっている。
 そう感じたのは、自分のものではない感情が、身を刺したからだった。
 張り裂けそうな心細さと恐怖。それにかすかな焦りが交じって、不意にミレーユをつついたのだ。
 痛いほどの悲しみに、ミレーユは突然、はっとした。
 今まで何をしていたのかも、ここがどこなのかもわからないが、唐突に意識が浮上したようにも感じられた。
 焦って首をめぐらせるが、目を開けたはずなのに何も見えない。なぜか周囲は真っ暗で、上下までも黒でぬりつぶされたよう。けれど突きよせる痛み似た悲しみに、それを不思議に思う余裕もなかった。
「だれ…?どうしてそんなに悲しいの?」
 何度見回しても、光のたぐいさえない中では何も見えなくて、ミレーユは焦れて、とうとう声を発した。
 ひかえめでも必死で発した声は、黒い空間に吸い込まれていく、と感じた刹那、視線の先に人気がさした。
 真っ黒なはずなのに、その姿は妙なくらいにはっきりとして見えた。
 十二、三ほどに見える、栗色の髪をした少年は、うつむいていてここからでは表情が見えない。
 けれどミレーユには、ひとめ見た瞬間に、それが誰なのかを理解した。と同時に、これが夢なのだと知る。いつかも、子どものリヒャルトを夢で見た。迷子のようだった彼は、ミレーユに気づいてくれなかったけれど…。
「…リヒャルト!」
 ミレーユが駆け寄ると、足音こそしなかったが気配を感じたのか、少年はゆっくり顔を上げた。そのひとみはやはり見慣れた鳶色で、しかし見慣れた優しげな光は微塵も見当たらなかった。
 怯えきり、絶望を浮かべた鳶色のひとみに射ぬかれて、ミレーユは一瞬、かける言葉を失った。
 そんなミレーユに、少年は口を開く。
「……あなたはだれですか?」
「…あたしは、ミレーユよ」
「…ミレーユ…?」
 少年は精一杯礼儀正しく振る舞い、けれど疑いを隠しきれない様子でちいさく首をかしげた。
 身を刺す痛みがさらに増して感じ、ミレーユは、この痛みの持ち主が彼であるとわかった。歳の頃からみても、彼はきっと、『あの頃』の彼なのだ。
「あなたは私を知らないかもしれないけど、あたしはあなたを知っているのよ」
「どうして。…あなたはまさか、…シアランの人間か」
 急に彼の様子が変わった。
 目に殺気が宿るのを、ミレーユはぎょっとしてみつめた。そしてふと、そのわけに気づいてあわてる。
「違うわよ!いえ、今は違わないけど…とにかく!あたしはリゼランド生まれで、アルテマリスの公爵の娘なの」
「…アルテマリスの…?」
 ちょっと驚いたような彼は、まじまじとミレーユをみつめた。ひとみから殺気が消える。
「どうしてアルテマリスの人なのに、俺のことを知っているんですか」
「どうしてもよ。強いて言うなら…そうね、これはたぶん夢だから」
「夢?」
「そうよ」
 自信満々にミレーユが胸を張れば、幼いリヒャルトはちょっと疑わしそうにしながらもうなずいた。
 うなずいて、そして彼は何かを思い出したらしく、そのままうつむいた。
 いつの間にか感じなくなっていた悲しみが、また目覚めたように痛みだす。
「…どうしたの?」
 ミレーユはしゃがんで、彼を見上げるようにするが、彼は顔を見られまいとするようにそれを避けた。
「………何でもありません」
「そんなはずないでしょ?どこからみても何かあったとしか思えないわよ」
「…………」
 何も言わない彼の髪を、ミレーユはじっとみつめた。
 伝わる悲しみは大きくて、いつかの夢で会った小さなリヒャルトと同じだった。
 あのとき彼のために、何かしてあげたいと強く思った。そうして、そのときに思ったことで、今のミレーユはいるのだ。
「…あたしには、話せない?」
「…?」
「あなたの力になりたいのよ、あたし。あなたに独りで悲しんでほしくない。あなたの苦しみをいっしょに背負いたいの」
「……さっき初めて会ったのに?」
 突き放すような返答に、ミレーユはうなずく。彼はこちらを見ていなかったけれど、どうにか伝わってほしくて、強くうなずいた。
「あなたにとっては初めて会った人だけど、あたしはあなたを知ってるって言ったでしょ?」
 少年はようやくこちらを見た。
 うるんだひとみが、精一杯の虚勢をともなってミレーユをうつし出している。
「…あなたは、魔法使いみたいですね」
 ぽつり、こぼしたそれは、嫌味などのたぐいではない。しみじみとしたようにはっせられたその言葉になんとなくうれしくなって、ミレーユは口元をほころばせた。
「そうよ、あたし実は魔法が使えるの」
 にっこり笑って、ミレーユは彼の髪に手を伸ばした。触れた髪はやはりさらさらとして心地よかった。
「何があったのか、教えてくれる?」
「………探していたんです」
 大事なものを、と彼はうつむいて付け足した。
「失くしもの?」
 予想外の言葉にミレーユが尋ねると、彼は悩むような間をあけた。それからちいさく首を振った。否定かと思いきや、少年は困り切ったようにミレーユに目を合わせた。
「わかりません」
「どういうこと…?」
「持っていたものを探していたのか、はじめから持っていなかったのか、わからないんです」
 不思議なことを言いだす幼いリヒャルトは、きょとんとするミレーユにすがるように、まっすぐに見つめて続けた。
「でも、大事なものだということだけは確かなんです。探さないといけないんです」
 その声は必死で、とても冗談には聞こえなかった。そもそも彼が冗談を言うような心境でないことは、ミレーユも知っていた。
 少し考えた後、ミレーユはうなずいた。
「わかった、探しましょう、それ。あたしも手伝うから」
「…いいんですか」
「言ったでしょ、あたしはあなたを助けたいの」
 すまなさそうに問い返す少年に、ミレーユは笑ってみせた。それからふとまじめ顔に戻って、あごに手をやる。
「でも問題は、それが何なのかわからないってことよね…。何なのかわかりさえすれば、すぐ行動に移せるのに」
 つられたように隣で考えこんだ少年リヒャルトは、そこで何かを思い出したようにはっとした。
「…そういえば、すごく温かかった気がします」
「何だかわかるの?それならやっぱり失くしたものなんじゃない?」
「かもしれません」
 うなずいて、リヒャルトは記憶をたどるように目をつぶり、今度は額に手をやってつぶやくように続けた。
「温かくて、明るくて、ふんわりとしていて…すごく大事で」
 そして――…
 彼の小さな声を聞き逃すまいと必死で耳をそばだてていたミレーユは、そのとき遠くの方から別の音がするのに気がついた。
 人声ではない。足音でもない。
(あれは、雨…?)


 ミレーユは、開けていたはずの目をまた開いた。
 視界は薄暗く、頭もどことなくぼんやりしている。そんな中ではっきりしているのは、窓を、城をたたく激しい雨音だった。
「ん…雨……?」
「そうですね…。それにしても、ずいぶん強く降っているみたいだな…」
 目をこすりながら寝呆けまなこでつぶやいたことばに返答が返って、ミレーユは声がした隣を見た。
 同じベッドに寝ていたリヒャルトは、薄暗い中で頬杖をついてミレーユを見ていた。
「雨音がうるさくて起きてしまいましたか?」
「……」
「ミレーユ…?」
 すぐ隣にある鳶色の瞳には、いつもと変わらぬ穏やかで優しい光が宿っている。
 ミレーユは思わず、その姿に手を伸ばした。ちょっと驚いたような彼の頭を引き寄せて、半分夢のなかのまま抱きしめた。
「どうしたんですか?」
「……リヒャルト」
「はい」
「大事な探しもの、見つかった?」
「探しもの…?」
 素直に抱きしめられていたリヒャルトは、静かにつむがれるミレーユのことばに首をかしげた。
「ミレーユ、夢をみたんですか?」
「……」
 尋ねてみても、返事はない。頭を抱き抱える手を少し避けて、リヒャルトはミレーユの顔を見上げた。そしてぎょっとする。
「あたし、リヒャルトの力になりたいの」
 ミレーユは、嗚咽こそあげなかったが、泣いていた。
 ミレーユの涙をみるのはこれが初めてではないのに、毎回、リヒャルトはとてつもなく動揺する。
 今回も例外ではなく、リヒャルトはあわてて彼女の手を振りほどき、今までとは逆に、手を回して包み込んだ。
「何があったんですか」
「あたし、リヒャルトの探しもの、いっしょに探すって約束したのに、探せなかった。リヒャルトは、すごく大事なものなんだって、探さなきゃいけないんだって、言っていたのに」
 とぎれとぎれのささやきを、リヒャルトは黙って聞いていた。何となく、ミレーユが見た夢の内容がわかって、リヒャルトは自嘲する。ミレーユが夜、急に泣きだすのは、実は最近に始まったことではなかったのだ。
「…何歳の俺ですか?」
「あたしよりも小さなあなただった…」
「……」
 やはりそうだ、とリヒャルトはミレーユを抱きしめる腕にかすかに力をこめた。
 この城は幼少の自分が暮らした城であり、一度は追放された城だ。
 はじめのうちは、リヒャルトが帰ってこられて本当に良かった、と言っていたミレーユだが、城に残る政変の記録という傷痕が、どうやら彼女を複雑で不安定な気持ちにしてしまったらしい。
 自分のことを、まるで彼女自身のことのように受け止めて、笑ったり怒ったり悲しんだりしてくれる彼女はとても愛しかったが、自分よりも彼女が受けた痛みの方が大きかったらしく、それ以来こうして夢を見ては、ミレーユは泣く。
 とても愛しい。反面、そうして泣くミレーユを見るのはとても苦しく、つらいことでもあった。
 泣かしているのは、まちがいなく自分だからだ。
 彼女には、明るく笑っているほうがずっと似合っているし、そうしてやりたいのに、結局はいつも、自分のせいでミレーユは泣く。
「小さい俺は、何をそんなに必死に探していたんです?」
「わからないの…リヒャルトにもわからないけど、とにかく大事なものなんだって。あったかくて、ふわふわしていて、明るくて、って言ってた。まだ何か言ってたのに、あたし、聞き取れなくて…」
「ずいぶん無理難題だったんですね」
「でも必死だったの」
 過去の自分の『探しもの』に苦笑するが、ミレーユはぐっと嗚咽をこらえるように言って、腕の中でリヒャルトを見上げた。
 月明かりさえない部屋で、不思議とその青灰色ははっきりと見えた。
「リヒャルト、見つかった?大事な探しもの…。あたし、見つけられなくて、力になれなくてごめんね…!」
 またあふれてくる涙を隠すように、ミレーユはうつむこうとしたが、その前にリヒャルトが、その片頬を手のひらで包み込んでいた。
 そして、そのあふれてくる悲しみに口づけた。
 愛しくて、笑ってほしくて。その、自分のための悲しみを、すくいとりたくて。
「大丈夫です。見つかりましたから」
 その言葉にびっくりしたらしく、ミレーユの涙が止まった。にじんで閉じられていた青灰色が、ふたたびリヒャルトをみつめてくる。
 その、この国の貴色のきれいな瞳をしっかりとらえて、リヒャルトは微笑んだ。
「見つかりましたよ、大事な探しもの。…それも、あなたのおかげで」
「…本当に?」
「ええ。温かくて、ふんわりとしていて、まぶしいくらいに明るい、宝玉よりずっと大事なものです」
 言い聞かせるようにゆっくりと言えば、ミレーユはたしかめるようにリヒャルトを見つめたのち、ようやくふわっと笑った。それがまぶしくて、リヒャルトは目を細めてそれを見つめた。
「…良かった…!」
 そう、吐息でつぶやいて、ミレーユは安心したように目を閉じた。やはり、半分夢見心地のまま話していたのだろう。すぐに寝息は規則正しいリズムを刻みだした。
 いつの間にか雨はだいぶ弱くなったらしく、窓や壁を打つ雨音も穏やかにさえ感じるほどになっていた。
 口元にうっすらと微笑みの余韻を残したまま眠りにおちたミレーユの金茶の髪を、リヒャルトはそっと撫でた。さらり、とそれは耳に心地好い音をたてる。
「…ちゃんと、見つけましたよ」
 あなたの夢の中で、小さな俺は探していた。それはきっと、他の「何もの」でも、「誰か」でもなく、
「あなたを」
 温かくて、ふんわりとしていて、明るくて。 そしてとても愛しい、家族と呼べるひとを。



                        〜END〜



 なんだかミレーユがミレーユじゃなくなり、リヒャルトがリヒャルトじゃなくなりました。
 あ、あの…一応言い訳ですが、同じベッドでってあの、そういう意味ではないですので……
 いえあの、結婚後数ヵ月後設定というぶっ飛んだ設定なのですが、とりあえずこの話はそういう要素はないつもりです…。ええと、色んな意味で、すみません(・・;)
 『探しもの』としてはベタなものにしてしまった上、予想外にシリアスな展開に…!
 「ほのぼの甘め」が目標でしたが、出来上がってみたら「シリアス甘め」になりました。ミルクチョコではなくてブラックチョコみたいな…←
 意外と、子どもリヒャルトが融通きかなくて困りました(笑)警戒心強すぎでしたが、まぁ裏切られすぎていればこんな感じになりそうかなと…いえ、すみません。

 こんなに無駄に長いものを最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました!!
posted by 聖火 at 22:53| Comment(6) | 二次創作・身代わり | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
『身代わり伯爵』創作の新作を拝読させて頂きました。

とても切なくて、とても甘いリヒ×ミレ話をありがとうございました。

時折、エドゥアルトの回想にも出てきますが、
ミレーユと出会う前のリヒャルトを知りたい今日この頃です(笑)。
夢の中の少年リヒャルトの様に、
触れれば切れそうなオーラを発していたんでしょうね(笑)。
『ブリギッタの野獣』の真実が明かされるのは、いつ(笑)?

結婚後の設定というのが、
二人の絆が確かな物になっていて読んでいて安心出来ます。

ストーカーみたいですが(笑)、また覗かせて頂きます!
次回作も楽しみにしております。
Posted by sakura at 2009年10月15日 00:27
こんにちは。
シリアスで良いですね〜。
聖火さま色が出ていて素敵です。

sakuraさま同様ストーカーしてます(笑)。
(sakuraさま・聖火さま、お二人にごめんなさい)

わたしの方は全キャラクター制覇を目指し?
頑張っています(本当か?)。
いや、新たなキャラを新規開拓中ですよ(笑)。
得意分野の?第五師団をちょっとお預けしようかなーと。

書いてみてわかる事ってありますよねー。
わたしのほうもリヒャルトが最近融通きかないです(笑)。

シリアスでもラブラブな二人をごちそうさまです。
また参ります。
Posted by 桔梗 at 2009年10月15日 17:27
いつもコメントありがとうございますv
とても嬉しいです。

>sakura様
こんにちは!
駄文を読んでいただけて幸いです^^

そうですね…私も知りたいです。
あ!そうですね!確かに…
そもそも「ブリギッタの野獣」という別名がついたのっていつ頃からなんでしょうか?
私の中ではきっと、初めの頃は、痛々しいほど虚勢を張っていたんじゃないかなと思うのですが。

本当に有り難うございます。温かいコメントにいつも感涙です(T−T)
いえ実は…私自身もsakura様のストーカーですのでご心配なくw

次回作も頑張ります!
もしかしたらリヒャミレより先に、需要無視・前代未聞のエドジュリが来るかもしれませんが(笑)、よろしくお願いいたします♪


>桔梗様
こんにちは!
いつも有り難うございますv
私色が出ているのお言葉、とても嬉しいです!!
ここで二度も暴露するのは恥ずかしいですが、私も桔梗様のストーカーやってますのでお互い様ですよw←

そうなんですか!楽しみです。全キャラコンプリート頑張ってください!後でのぞきに行こうかなと計画中ですw
あ、でも第五師団お預けですか?!Σ(ノ□;)
それはちょっと悲しいです…桔梗様の愉快な第五騎士団大好きだったので;
解禁(?)の際には飛んでいきますねw

やっぱりそうですか…リヒャルトは最近、反抗期なんでしょうかね?(笑)

楽しんで頂けて幸いです。
次作も頑張りますのでよろしくお願いします♪


Posted by 聖火 at 2009年10月16日 14:08
こんばんは。このお話も遅くなりましたが拝読しました。

胸がじーんとするいいお話でした。なんか、ピュア…!
書く文にはその人の人柄が表れると言いますし、聖火さまはきっと優しいお嬢さんなのだろうなと思いました。

学生さんも忙しい時期ですね、お風邪など召されませんように…。
Posted by 相馬つかさ at 2009年12月13日 22:28

>相馬つかさ様

いつもコメント有り難うございます!
返事が遅くなって申し訳ありません><。

有り難いお言葉、有り難うございます…とても嬉しいです(*^^*)
そんなお言葉をもらえるほどの文ではありませんが…拙いながらも、そのお言葉を糧に、これからも頑張ります><

遅くなってしまいましたが、新年もよろしくお願いいたします!
相馬様もお体にお気を付けてください^^

Posted by 聖火 at 2010年01月03日 21:07
聖火様                                      聖火様の第五師団は団長がツッコミ所満載で楽しいし、つっこむ副長も見ていて楽しいです。 がんばって下さい!
Posted by 文学少女 at 2012年03月11日 11:46
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