2009年10月08日

2.温度

【ものかきさんに100のお題。】『2.温度』

「身代わり伯爵」シリーズより、シアラン編後リヒャミレ。
ふたりは結婚しているという設定です
ご了承の上でお願いします;

妄想突っ走りの駄文ですが、感想などいただければうれしいです^^





  

     肌寒い風は、日に日に気温を下げていた。
 ついこの間まで色付いていた葉は、気がつけばすっかり色を変えて、まるで雨のように次から次へと落ちていき、気づけば立ち並ぶ木々は丸裸になっていた。

 木枯らしが吹く中、ミレーユとリヒャルトはふたりで城下町に出ていた。いわゆる「お忍び」というやつで、護衛としてそれとなく付き添うのはロジオンのみだ。
「なんだか、久しぶりですね。あなたとふたりでいるのは」
 雑貨屋のショーウィンドウをひやかしていたミレーユは、それを穏やかに見守っていたリヒャルトの、少し寂しさの混じった言葉に振り返った。
 大公になってからの彼には、心配なくらいたくさんやらなければならないことができた。
 神殿の<星>を返還し、腐敗していた政治体制を整え、焼け落ちた城を建て直し、意味もなく牢に入れられた人々の解放や、有力貴族たちへの挨拶まわりなど、数えればきりがなかった。
 ミレーユはミレーユで、少しでもそんな彼の力になろうと奔走していたから、気づいたときにはふたりきりになれないまま2ヶ月近く経とうとしていたのだ。
 新婚のふたりがこのままではいけない!と、ようやくそのことを訴えたのは、なぜか当人たちではなくアンジェリカだった。けれども新婚旅行をしている暇はないという大臣たちの判断もあり、急遽進められたのが、このささやかな「お忍び」だった。
「仕方ないわよ。やることがたくさんあったんだし、お互いに忙しかったし」
 ミレーユは励ますようにリヒャルトの肩を軽くたたく。
「それに今、こうしてふたりでいられてるじゃない」
「…そうですね」
 ミレーユとしては本心を言っただけなのだが、心なしか彼がさらに落ち込んだようにみえた。
 憂鬱を吐き出すように、リヒャルトが小さくため息をつくのがわかる。
「…でも俺は、あなたに雑務をさせるためにシアランに来てほしかったんじゃないんです」
「そんなの」
 わかってるわよ、と笑おうとして、ミレーユの言葉はリヒャルトの人差し指に止められる。
 唇に直に触れた彼の指は冷たくて、思わず、小さくふるりと震えた。
「それに最近は、あなたとゆっくりする時間さえなかったし、いろいろストレスがたまっているんです」
 言いながら、けれど彼の唇は弧を描く。
「だから今から行きませんか?」
 意味深な言い方をしながら、彼は触れていた指をスライドさせて、ミレーユの唇を撫でていく。唇の熱が奪われて、変わりにおとずれるのはひんやりとした冷たい空気だ。
 そのまま、多少ぬくもりを得た大きな手が頬にずれていったところで、ミレーユはようやく口を開いた。
「ど、どこに?」
 まわりは通行人であふれる商店街なのに、通行の邪魔にならない道の端にいるせいで、誰もふたりに気を止めない。
 見ているのはおそらく、荷物持ちにされて、少し離れたところから見守っているであろうロジオンだけで。
 冬も間近だというのに、触れられた頬が熱いせいで、さらに彼の手が冷たく感じた。
 真っ赤にうろたえたミレーユに満足したのか、リヒャルトは不意に、あの、邪気のない笑顔を咲かせた。
「菓子処ですよ。最近あなたがお菓子を食べているのを見ていないので」
 それを見るのが、俺は好きなんだと言いましたよね。
 拍子抜けしたミレーユは、ようやく我を取り戻して憤慨した。
「ちょっとリヒャルト!あなた、わかっててやってるわね!?」
 こんなことが前にもあった。たしかそう、運命の相手が見えるとかいう、偽物の鏡の一件で―…。
 勢いで頬にかかる手を振り払うと、リヒャルトはその手で、今度はミレーユの手を握った。
「じゃあ、行きましょうか。ちょうど近くに、シアラン本場の有名な菓子店があるんですよ」
 つながれた手は、先ほどの手と同じとは思えないほど暖かくて、寒空の下、心地よくてとっさに振り払えなかった。
(なんで、あたし怒ってたのに)
 そんな自分に戸惑いながら、ミレーユは彼の笑顔を見つめる。
(……でも、まぁいいかな)
 夢の中、一人きりになって彷徨っていた幼い彼に、こうして自分が笑顔をあげられるのなら。
 そして何よりミレーユ自身が、こうして彼の傍にいることにしあわせを感じているのは紛れもない事実だから。
(あれ…?そういえばあの鏡について、あたし何か違和感を感じた気がするんだけど…)
「ミレーユ?どうしたんですか」
 手を引いて歩きだそうとしていたリヒャルトが、歩きださないミレーユを振り返る。
 続いて近づいてくるのは心配そうな表情の整った顔と鳶色の瞳で、ミレーユはあわてて首をふった。
「なっ、何でもない!」
「そうは見えないけどな…」
 つぶやきとともに首を固定されて、額に額をくっつけられるのかと思いきや、目をぎゅっと閉じて感じたのは、何やらやわらかな温度の高いものが額に触れる感覚だった。
「な…」
 絶句して目を開いたときには、もうその暖かいものは離れていたけれど、恥ずかしさのあまり高まる温度は暖かい、なんてレベルではなく。
「久しぶりだから、これくらいは許してください」
 いたずらに成功した子供のような笑みを残して歩きだしたリヒャルトに手を引かれながら、ミレーユは怒る気もなく、開いているほうの手で額に触れてみた。
 顔が熱い。
 それなのに冷えきった指先は、つないだ手から伝わる温度で暖かい。
 恥ずかしくてうつむきながらも、ミレーユはようやく気づいた。
 本当は、自分だって寂しかったのだということに。
 鏡の真実は、結局今回も思い出せずじまいだったということは、とっくに忘れていた。


 その日、街から護衛という任務を終えて帰ってきたロジオンを、第五師団団長ジャックはねぎらいのことばをかけるために呼び出した。
「それで、どうだったんだ?若君も久しぶりだったんだろう、シアランの繁華街は」
 簡単な報告を受けたあと、ジャックはロジオンを座らせて、目を光らせて尋ねた。もちろん、根掘り葉掘り聞き出すつもりなのである。
 若君が心を寄せていた相手・ミシェルが、実はアルテマリスの公爵の娘ミレーユだったことに、一時は大きな打撃を受けた彼だったが、最初の驚きがすぎると、俄然、応援する立場にまわっている。…いや、もちろんそのつもりだ。
 今回ももちろん、その参考のために聞き出すのであって、決して興味本位ではない。断じてそんなことではない!
 ロジオンはその怪しく光る眼光を受けても顔色ひとつ変えなかった。
 少し悩んだ後、ぽつり、とこぼした。
「そうですね…これは私からの視点ですが、若君は楽しんでおられたと思います」
「そうだろう!何せシアランの繁華街が明るく活気を取り戻したのも、若君の御おかげだからな!」
 しみじみと答えたジャックに、ロジオンもうなずく。
 うなずいて、その天然ゆえに、要らぬことを付け加えた。
「見ているこちらが熱くなるほどに楽しそうでした。私は若君がご幼少のころからお側にお仕えしてきましたが、あんなに、心の底から楽しそうな若君を見たのは本当に久しぶりでした」
「熱くなる…?ロジオン、お前熱でもあったのか?今は初冬だぞ」
「いえ、自分は平生です」
 じゃあ一体どうして、と首を傾げる団長の横で、一連の会話を聞いていた副長がはじめて口を挟んだ。
「恐れながら私には、ロジオンのことばは、『若君はミレーユ嬢と仲睦まじげで、はたからみていても恥ずかしいほどだった』、と聞こえますが」
 間違っていますか?とイゼルスがロジオンを見る。ロジオンは沈黙で肯定した。
「そ…」
 冷静な部下たち交互に見つめ、絶句しかけたジャックは、あわててあははと乾いた笑いをこぼした。
「そうなのか。いやぁ良かった、大公ご夫妻が仲睦まじいのは喜ぶべきことだな。あはははは…」
「団長、コーヒーをこぼしています。それも盛大に」
 イゼルスがため息をついてタオルを差し出すと、手元も見ずに見当違いの場所を拭きながら、ジャックは副長を見上げた。
「…私だって、ミシェルが女だとわかった今では、きちんと応援申し上げているぞ。ただな…今まで男だと思っていたものを実は女でした、といきなり言われて、混乱しているだけで」
「もう3ヶ月経っておりますが。それから団長、コーヒーの染みはもう少し左です」
「考えても見ろ。私にとってミシェルはかわいい部下のひとりだったんだぞ。それがいきなり、女だとしても隊員服で若君と…見つめあって顔を赤らめたりしているのを想像したら」
「ですから、ミシェルはもう隊員服など着ていません」
 今度はタオルを持ったままわなわなと震えだす団長に、どうやらイゼルスのことばは届いていないらしい。
「あの、私はそろそろ」
「…ああ、行っていい。ご苦労だったな」
 ロジオンがカップを置いて立ち上がるのへ、いい加減うんざりした様子のイゼルスが、あらぬ妄想に苦しむ団長の代わりに退出を許可した。


 そんな団長の苦しみも露知らず、新婚ふたりの温度は、冬を乗り越えるだけのたしかなぬくもりを、お互いだけではなく、シアラン中の人々の心に灯していた。
 希望という名の。





        〜END〜




はぅあ〜恥ずかしい……。
 私の二次、最近生ぬるい気がしていたので、「糖分増量☆甘々なリヒャミレ」を入念して書いたら、水を得た魚のように、リヒャルトが暴走しました(・・;)
 私自身がやられてしまったので、口直しに団長副長に登場してもらったら、甘カップル苦手な団長が可愛そうなことに…ごめん、団長。苦いコーヒーあげるから許してください(笑)
 というかリヒャルト!!私は指にキスまでしか許可した覚えないよ!(←何それ)
 なのにおでこにとか、どさくさに紛れて何してんの!!おかげで団長がやられちゃったよ!どーすんの!…と言ってやりたいところですが(笑)
 彼も仕事いろいろ頑張って、ストレスたまっちゃったんですよね。ということで今回は大目にみます←

 …ええと、あとがきまでも私が暴走してしまい、申し訳ありません;
 最後まで読んでくださってありがとうございました!!
posted by 聖火 at 17:03| Comment(1) | 二次創作・身代わり | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あ、甘すぎる!! 団長がいつ再起不能になるかわかりませんね(;^^)
Posted by 文学少女 at 2012年03月11日 11:33
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