2009年10月08日

40.日向ぼっこ

【ものかきさんに100のお題。】『40.日向ぼっこ』
「薄紅天女」よりあたそのです。


これもまた駄文になってしまいましたが…><。
とにかく、結果はどうであれ、初のあたその二次ですv






   


 武蔵の春は遅く、のどかで、苑上が知るどんな春よりも美しかった。

 冬の厳しさは想像以上につらく険しかったが、阿高が心配していたような、都に帰りたいという気持ちは一度もわかなかった。
 それどころか苑上は、与えられた仕事をし、自分たちでこしらえた夕食をみなで囲むとき、今までに感じたことのないしあわせを感じていた。
(わたしは今、生きている…生きているのだわ。これが生きているということ。これを知らなかったわたしは、今まで死んでいたも同じだったのかもしれない)
 たしかに氷のような冬の水で毎日洗濯や炊事をした手は、あっという間に荒れてあかぎれ、一時は箸も持てないほどはれあがった。
 それでも苑上は懸命に仕事をし、みるみるうちに一般の家事を修得していった。それには阿高に限らず、家事を教えていた美郷を含め家人のほとんどが驚いた。
 驚かなかったのは、苑上に少し遅れて竹芝に来た千種だけで、彼女はにっこり笑って苑上と目を見交わした。
 というのも、機を織ることにかけては随一の腕を持つ千種だが、彼女も家事については初心者同然であり、苑上の同志だったからだ。

 かくして苑上のはじめての武蔵の冬は、比較的安穏に過ぎ去った。

 うららかな春の日差しが照りはじめると、武蔵の平野に降り積もった雪はびっくりするほど早く溶けた。
 阿高は、夜、明日散歩に行きたいと言った苑上に、ちびクロを連れていく条件で許可してくれた。
 苑上が初めて迎える武蔵の春の散策に、阿高自身も行きたがったが、彼は外せない仕事が入っているらしい。『次はおれも行くから』と言って、残念そうに苑上の髪をそっと撫でた。
 苑上も、阿高と共に出かけることを期待していなかったはずもなく、残念な気持ちを隠さずに、それでも微笑んだ。『そのときはちゃんとお昼も持っていきましょう』と。

 苑上が元皇女であることは屋敷のひととわずかな村人しか知らないはずなのだが、やはり凡人離れした雰囲気を持つ彼女には、まだ村人の友人はいなかった。
 彼女は、村の女にとって阿高を奪った女でもあるから尚更である。
 苑上は朝のうちに洗濯を終わらせると、美郷にことわってから、ひとりで家を出た。
「ちびクロ、おいで」
 門のところで苑上が呼ぶと、もう狼とほぼ同じ大きさになった真っ黒なかたまりは、嬉しそうに駆けてきた。
「散歩に行きましょう。今日は阿高は仕事があるそうだからわたくしだけだけれど、ついてきてくれる?」
 問いかけると、千切れんばかりにゆれる尾が答えた。

 武蔵の春は、都より遅いぶん、駆け足にやってきたようだ。
 草花は一気に花開いていて、平原に出たところで苑上は足を止めた。
 真っ先に先を走っていたちびクロが、急き立てるように吠えるのもかまわず、苑上はその中へ分け入った。平原の先に、淡い桃色が見えたのだ。
「ちびクロ、あれは桜かしら…?」
 駆け戻ってきてまとわりつくオオカミ犬に尋ねながら、苑上は歩を進める。徐々に見えてきたそれはやはり、小さな桜の木だった。
 それも、苑上より少し高いくらいの高さしかない。おそらく阿高よりも低いだろう。
 それなのにその若木は、懸命に花をつけていて、苑上にはそれが愛らしく感じられた。
「あなたも、頑張っているのね」
 そっ、と花弁に手を添えながらつぶやけば、タイミングよく流れてきた春風が花々をゆらした。

 その日、阿高は珍しく機嫌がよくなかった。
 仕事というのは、春先に行われる田への放水のための、水路の点検だったのだが、いつもなら藤太たちと楽しそうに仕事をしていく阿高が、今日は何にも反応が悪いのだ。
 昔から、仲間内で一番俊敏だった阿高が、ついに広梨にからかい気味に押されて、田んぼへ倒れこんだのをみて、とうとう藤太が呆れ返った。
「おい阿高、大丈夫か?悪いな、まさか本当に倒れるとは思わなかったんだ」
 広梨がすまなさそうに言うのへ言い返したのは阿高ではなく、藤太だった。
「大丈夫大丈夫、こいつは恋煩いだからな。ほっとけ、すぐに治るさ」
「本当か?…恋煩い?」
「違う」
 目を丸くする広梨に、阿高は田んぼから這い出ながらむすっと言い返したが、そのわりに覇気のない言葉に、広梨はさらに目をむいた。
「あの子と何かあったのか」
「何もないよ」
「何もなくはないだろう。友よ、聞かせてごらん。男女のことならば、この天下の藤太さまに!」
「よく言うよ、散々移り気したくせに」
「経験豊富と言えよ」
「おいおい」
 言い合いをはじめたふたりの間に割って入り、広梨はため息をついた。
「それはこの際どうでもいいだろう。で、阿高は実際、何があったんだ」
「何もない」
「つまらない意地を張るなよ。ことによっては協力すると言っているんだ」
 広梨の真面目な口調に、阿高はようやく口をつぐんだ。
 阿高の吐露(それはやはり「恋煩い」で、以前との変わりようにふたりが爆笑し、阿高が憤慨したのは言うまでもない)を聞いた広梨は、結局「貸し」として仕事の肩代わりを申し立てた。藤太も賛成し、阿高は、まだ笑いを噛み殺しているふたりに、煮え切らないながらも感謝して、その場をあとにした。
 予定よりもずっと早くに、しかも一人で帰ってきた阿高に、美郷は驚きはしたが、理由はすべて心得ているようで、鈴ちゃんなら、大分前に散歩に行ったわよ、と教えてくれた。
「追うのならクロを連れていくといいわよ。あ、あとこれ、持っていきなさい」
 含み笑いとともに渡された握り飯は、よっつあった。考えてみればまだ正午をすぎたばかりだ。気づかいは有り難かったが、その含み笑いが気にかかる。
 阿高が鈴のことで何か行動しようとすると、家人は決まってこんな笑い方をするのだ。
「…ありがとう」
 自覚があったために決まりが悪く、阿高はさっさとクロを連れて家を出た。

 クロを従えて、なんら変わりのない武蔵の春を歩いていると、あの出来事が夢だったような気さえしてくる。
 同時に、鈴がいたことさえも夢だったような心地がして、阿高はクロを追う足を早めた。
 のどかな春風に似つかわしくない気持ちを抱えた阿高が導かれたのは、予想に反して、野花咲き乱れる平原だった。
「クロ、本当にここなのか?」
 道から平野に分け入るクロを追いながら、ふと疑問を覚えたのはつかの間で、まわりを見回していた阿高は、向かう先に一本の桜の若木があるのに気づいた。自然とはやる足に従って、クロも走りだす。
「鈴!」
 阿高は、小さな桜の木の幹に寄りかかった、小さな影に呼びかけた。

「…阿高?」
 はっきりと耳に届いた声に目をあけると、目の前に見慣れた阿高の顔があった。
 そこらの少女よりずっときれいな顔立ちに、泉のような瞳。その中に見えるのは、なぜだか心配そうな光だ。
「大丈夫か、具合でも悪いのか?」
「え…?」
 苑上はぼうっとする頭をはっきりさせようとまばたきを繰り返す。傍らに丸まって、いっしょに陽気を楽しんでいたちびクロは、いつの間にかクロとじゃれまわっている。
「阿高、仕事は?」
「藤太と広梨に代わってもらった。それより、鈴は何でこんなところにいるんだ」
「…ごめんなさい。この桜が見えたから、つい道をそれてしまったの」
 阿高の怒ったような口調は、心配してくれているからだと知っているから、苑上は謝った。
 何が心配なのかはよくわからなかったけれど、それでようやく、阿高はつめていた息をはいた。
「…寝ていたのか?」
 どこか気が抜けたような阿高の問いに、苑上はこくりとうなずいた。そして中腰で苑上に高さを合わせている阿高に手を伸ばし、自分の隣に引き寄せた。
「ほら。陽だまりがすごく暖かいの」
「…本当だ」
 抵抗せずに苑上の隣に腰を下ろした阿高は、目をつぶって日光を感じるように間をおいたあと、微笑んだ。
 小さな陽だまりに肩を寄せあって座り込んでいると、互いの体温も相まって心地よい。
 いつの間にかじゃれるのをやめたクロとちびクロが、甘えるようにふたりにすり寄ってきて、狭い陽だまりがさらに狭くなった。
 ちびクロに場所を空けようと、苑上は阿高の腕にしがみついた。それに気づいた阿高が、投げ出した足のうえに苑上を抱き上げた。
 胸にこみあげてくるじんわりとした思いに、苑上は思わず笑った。
「あったかいね」
「そうだな」
 阿高は苑上に腕をまわしたまま、小さな幹に背を預け、腕のなかのぬくもりと光の暖かさに再び目を閉じた。
 たとえ借りをつくったとしても、こんな時を過ごせるなら悪くないと思いながら。

 耳元で規則正しい寝息が聞こえ、苑上は阿高が寝ていることに気づいた。
 彼の寝つきのいいのは、出会った頃からまったく変わっていなくて、苑上は胸がきゅっと甘くうずくのを自覚した。
「阿高…ありがとう」
 聞こえていないからこそ、そっとつぶやかれたことば。
 それに反応したちびクロが寄越した視線に微笑みを返して、苑上も目を閉じた。

 うららかな春の昼下がりは、桜色の下で大好きなひとのぬくもりと日向の暖かさに包まれる。
 最後に見たのは、ちびクロの真っ黒な毛に踊る光。


                          〜END〜



…撃沈です……(T_T)どこが日向ぼっこやねん!!という突っ込みが、誰に言われずともすでに頭の中で聞こえました。
うぅ、素敵なお題なのに、私の文才がないばっかりに…。
何はともあれ、あたそのは穏やかに日々を過ごしていてほしいなぁと思います。安穏ではないとは書いてありましたけど、彼女は自分が働くことにしあわせを見いだしていくんじゃないかな…そして阿高は過保護であってほしい(笑)
今回は出せませんでしたが、あたそのはもちろん、きっと藤太と千種もバカップルなんだろうな♪あたそのほど、ほのぼの呑気ではないと思うけど。
いつか書いてみたいカップルのひとつですね(^^)
あ、でもその前に、もっと糖度の高いあたそのを書きたいです(苦笑)
読んでくださってありがとうございました!!
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posted by 聖火 at 01:06| Comment(1) | その他の二次 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
素敵なアタソノですvv本当二人が可愛いです。
もっと読みたいっていう欲が出てしまいました;
Posted by もみじ at 2010年02月12日 17:37
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