2009年09月10日

満月の下で。

身代わり伯爵の二次創作、第二弾です。
恐ろしい長さになってしまいました…短編にしようと思ってたのに><

設定は、やりたいと思っていたシアラン編後、ミレーユとリヒャルトは無事に結ばれていて、リヒャルトは無事にシアラン大公になっていて…という設定の上でのお話です。

なんだか、回収し忘れた謎が残っているような気がしなくもないのですが…(汗)
しかも、主役ふたりの口調がおかしいかもしれません。特にミレーユ…><
反省点はたくさんあるのですが、とりあえず読んでいただけるとうれしいです(///)

9月、秋。
ということで、十五夜の月にちなんで「満月」がモチーフです…一応。
調べてみたところ、2009年の十五夜の月は、10月03日だったみたいですが…一口に秋ということで許してください;;

では、「続きを読む」からどうぞ。






「満月の下で。」


 黒々とした夜空に、きれいな円形の月が浮かんでいた。
 風が肌寒くなり始め、季節の変わり目とも言えるのか、色づいた葉はもう散り始めていた。
 ふと空を見上げたミレーユは、一段と明るい月につい、今までの気まずさを忘れて声を上げた。
「わあ…見てリヒャルト。月がきれいよ。おいしそうなくらい!」
「ミレーユ。舌を噛みますよ。危ないから少し黙っていて下さい」
 彼と馬に相乗りしていたミレーユは、そっけない背中に視線を戻しながら、肩を落とした。先ほど後にしてきた離宮での一件から、彼はずっとこの調子なのだ。
「ねえリヒャルト…まだ怒ってるの?」
 小さく尋ねてみたが、返事はない。
 今夜は星が見えないほど月が明るいのに、向けられる背中が遠く感じて、ミレーユは悲しくなってきた。
「リヒャルト、ごめんなさい…。でもあたしは――…」
 ミレーユも、今回は自分が悪いと自覚していた。
 けれど、いつになく素直に謝ろうとしていたミレーユの声は、大袈裟なくらい大きなため息に遮られる。
「もう少し先に、小さな湖があります。そこで馬を止めますから、今は黙って」
 突き放すような物言いに、咄嗟に出かかった怒りは、リヒャルトが急に速度を速めたせいで風にながれてしまった。
 速駆けする馬に不慣れなミレーユは、結局気まずさを気にする余裕もなく、彼にしがみつくことになった。顔にぶつかる冷たい風が目にしみる。ミレーユは広い背中に額を押しつけて、目をつぶった。
 ほどなくして、馬はゆるゆると速度をゆるめ、止まった。
 リヒャルトの腰に手を回してしがみついていたミレーユは、そっと手に触れた手に、ぎゅっと閉じていた目をようやく開いた。
「…ミレーユ。湖についたので、一度降りましょう」
「いいの?」
 城に帰るのが遅くなるんじゃ――、と続けようとして、ミレーユの手はリヒャルトにほどかれた。
 先に馬から降りたリヒャルトは、つづいて馬から降りようとするミレーユを軽々と抱き上げて、馬から下ろした。
 腕はいつもと同じくらい優しかったのに、それは自分を地に下ろすと、そのままそっけなく離れていってしまう。
 それを物足りなく思う自分に気づきたくなくて、ミレーユはとぎれてしまった言葉をついだ。
「城に帰るのが遅くなるのに」
「馬上で喋られるよりずっとましです。危なくて仕方がないですから」
 手綱を、後から追ってきた従者に預けると、リヒャルトはふいとミレーユに背を向けて歩き出す。立ち止まるそぶりがなくて、ミレーユはその後を追った。


 夜の木立は黒々として、冷たい感じがした。
 灯りも持たずにそこへ分け入っていくリヒャルトに、必死でついていきながら、ミレーユは謝った。
「ごめんなさい、リヒャルト…」
 もめごとの発端を思い出しながら、ミレーユはうなだれた。
 元はといえば、リヒャルトとの約束を破ったのは、たしかに自分だ。けれど彼にそれを問いつめられたとき、思わず、でも結果として何もされなかったのだから…と言い返した。それがいけなかった。
 今夜、離宮では、アルテマリスの伯爵を迎える催しが開かれていて、当然ながらミレーユもリヒャルトに連れられてそこへ赴いた。
 宴に出るのはこれが初めてではなかったが、毎度のことながら、今回もリヒャルトはミレーユに念を押した。
 飲酒は、たしなむ程度に。国の問題になるから、私情はできるかぎり控えて。それから…、必要最低限以上は、あまり踊ったりしないでほしい――…
 ミレーユはこれまでも、きちんとそれを守ってきた(つもり)だし、彼も、苦笑することはあっても、こんなに怒ったことはなかったのに。
 前代未聞の怒りに、ミレーユは相当戸惑っていた。
 今回、踊ったのは三人。
 アルテマリスの伯爵様(彼は、宴ではあまりにも普通にふるまっていて、ミレーユは拍子抜けした)と、その同行者である彼の父親(もう少しで、ドレスに涙のシミがつくところだった)と、それから例の、もめごとの発端になっている人物だ。
 その人とは、ミレーユも初対面で、新米の子爵だと聞いていた。
 アルテマリスの爵位を持つ人物だと名乗られては、断るわけにもいかず、ミレーユは笑顔でその手を取った。
 普通、こういう場で踊るというのは、話をするということだ。
 彼は言葉巧みで、おまけにダンスも上手かった。大きなステップと、裏のあるだろう言葉に必死でついていくうちに、気がついたらミレーユは、彼と二人きりでバルコニーにいた。
 初めのうち、息が弾んでしまってそれに気づかなかったミレーユは、笑顔で相手をほめた。
『ダンスがお上手なんですね!』
 ミレーユが息を整えるのを待っていたのか、空を見上げていた彼は、その言葉でふとこちらに向き直った。
 その目に異様な「何か」を感じ、無意識に数歩後退ったミレーユは、ぱっと手を掴まれ、指先に口づけられてぞわっとした。
 そんなミレーユを、彼はひざまずいたまま、上目遣いに見上げた。艶やかにほほえむ。
『…もう一曲、ご一緒願えませんか?美しい姫』
 相手を考えると、さすがにむやみに振り払うことはできなかった。
 どうすべきか迷った末、ミレーユは自分でもびっくりするくらい、やんわりと相手をいなした。
 今となってはどうやったかも思い出せないが、心の中で「シェリーおばさま、ありがとう!」と叫んだのは覚えている。こういう場に慣れていないにも関わらず、我ながら見事だとも思った。
 だからその後、バルコニーから逃げ出して、一度控え室に戻ろうと大広間を出たミレーユは、不機嫌な顔をしたリヒャルトに出会って驚いた。
『どうしたの?』
 びっくりして尋ねたミレーユを、彼は問答無用で別室に招き入れると、閉めた扉にもたれかかってミレーユを見た。
『誰だったんですか?』
『誰って、だれが…?』
『さっき踊っていた人です。何を言われたんです?』
『何をって…何も言われてないけど…。あの人はアルテマリスの子爵様で、一曲終わったのにもう一曲、って言われたから、断ったの。それだけだけど…』
 事実を述べたのに、リヒャルトは表情をゆるめない。
『こういう場で、男とふたりきりにならないようにと言いませんでしたか』
『それは、言われたけど…。でも、何もなかったんだから、大丈夫よ。国の問題にはならないでしょ?』
 ミレーユとしては、相手を不作法に扱ったつもりはなかったので、大丈夫だと思ったのだ。けれど彼は、それを聞いてただ一言、帰りましょう、と言った。
 本来向こうに止まる予定だったにもかかわらず、彼はそれを有言実行した。
 役目をさっさと終わらせると、数人の部下を連れて、早々に離宮を発ってしまったのだ。
 それから今まで、ミレーユは彼とろくな会話もできていない。
 今も、数歩先を行くリヒャルトは、ミレーユの尻すぼみの謝罪に何の反応も見せなかった。


 林の中は、思ったほど暗くはなかった。
 人の手が入っているらしく、明るい月の光が、絶妙な具合に差し込んで、こんな気分でなければ、夜の闇が苦手なミレーユでも楽しめたかもしれない。
 けれどミレーユは、怖さこそ感じなかったが、リヒャルトの拒絶的な態度に、半泣きになっていた。
「ごめんなさい。本当はわかってる、今回はあたしが悪いの。リヒャルトとの約束を破ったのはあたしだし…。あのときは、売り言葉に買い言葉というか、そんな感じで、つい…。反省してる。ごめんなさい」
 彼の背を見ていられなくなって、ミレーユはうつむいたまま続ける。
「今回のことは、確実にシアランの国辱になるわよね…どうしよう。あたし、とんでもないことしちゃった…」
 言いながら、改めて口に出すと重大な失態であることに気づき、ミレーユは青ざめて頭を抱えた。
 何を言ったのかは覚えていないが、自分では華麗にかわしたつもりのあのとき、子爵はやや呆然としていた。信じられない、といったような。あるいは、何という無礼な女だ、だろうか…。
 いずれにせよ、彼がこれだけ怒るということは、自分の言動はあまりに酷かったのだろう。
「今からでも子爵様に謝れば、国同士の問題にしないでくれるかも…とにかく、こうしちゃいられないわ。今すぐ戻って、子爵様に謝らなきゃ」
 身をひるがえしかけたミレーユは、手首を掴まれてはっと我に返った。
 いつの間にかこちらに向き直っていたリヒャルトの顔は、木の葉の間から漏れる月明かりが逆光になって、ミレーユにはよく見えなかった。
「……いいから、こっちに来てください」
 押し殺したささやき声に、心臓が飛び跳ねる。
 動揺して、何をしようとしていたのか一瞬忘れそうになったミレーユは、口ごもる。
「でも、シアランとアルテマリスの…」
「いいから。見せたいものがあるんです」
 彼が、ここまで何かを主張するのはめずらしいことだった。
 ミレーユはちょっと驚いて、それから頷いた。
 リヒャルトはそれを見届けたのか、何も言わずにミレーユの手を引いて歩き出した。自然と、手首を掴んでいた手は、手をつなぐ形になっている。
 彼の手のひらの熱が、冷えた指先に心地良い。それに気づいたのか、リヒャルトの手が動いて、ミレーユの冷たい指先をすっぽりと包みこんだ。
 思わず見上げた先のリヒャルトは振り返らない。けれどミレーユは、薄暗闇の中で、思わず頬を染めた。
 さくっ、さくっ、とふたり分の足音が落ち葉を踏む音だけがひびく。
 申し訳程度につくられた小道を、しばらくふたりは無言でたどった。
(リヒャルトは…もう、怒ってないのかな…)
 先ほどまでに比べれば、彼のまとっている雰囲気も、いくらか柔らかいような気がする。
 けれどその一方で、問いを拒むように強く握られた手が、ミレーユが声を発するのを封じているようだった。
 ミレーユが声は声をかけようとして躊躇い、それを何度かくりかえした。
 とうとう口を開こうと決心して前を向いたとき、ミレーユはリヒャルトの身体で見えなかった前方が、やけに明るいのに気づいた。
 どうやら、その先で木立が切れているらしい。
「リヒャルト……?」
 つい、躊躇いも忘れて声を発したミレーユは、導かれるままに木立をぬけた。
 満月が照らし出す湖は、おごそかでどこか気高く、波の音と自分たちの足音以外は、何も聞こえない。
 初めて見る光景に、ミレーユはしばし言葉も忘れ、リヒャルトに手を引かれるままに、その淵を歩いた。
 入ってきた小道から少しはずれたほとりで、リヒャルトはようやく歩みを止めた。
 湖にうつる月に見入っていたミレーユは、急に立ち止まって振り返った彼に気づかず、そのまま彼の胸に激突して我に返った。
「わわっ!!ご、ごめんねリヒャルト、ちょっと、あまりにきれいだから」
 乙女とは思えない声を上げ、ミレーユは飛び退いて謝った。ぼーっと景色にみとれてしまったのがなぜか恥ずかしく、彼を直視できずに下を向く。
 彼が無言でいるほど、恥ずかしさがつのった。
「ああああの、あたしべつに、バカみたいにみとれてたわけじゃなくて、これでも一応いろいろ考えてたのよ、ほんとに、謝らなきゃとか、シアランのこととか、リヒャルトのこととか…」
 別にうろたえる必要もないのに、彼が無言で見つめてくるほどに、何か言い訳しなければいけないような気がしてしまう。
 動転してしどろもどろのミレーユに何を思ったのか、リヒャルトは再び、今度はそれほど大きくもなく、ため息をついた。
「…謝るのは、俺の方です」
 ようやく声を発してくれたリヒャルトに、ミレーユは言い訳をやめて彼を見た。
 今度は、はっきりとその表情が見える。
 銀色の光の中で、少し憂えた彼は、いつもよりも更に男らしく見えて、ミレーユは今度は彼にみとれた。
「あなたは“約束”を破ったと言いますが、…最後のあれは、国のための“約束”ではないんです」
「……え?」
 目を瞠るミレーユを見て、リヒャルトは本日何度目か知れない自己嫌悪に陥る。
 一応、語尾はその形になっていたはずだか、素直なミレーユには分からないだろう。
 自分自身、それが分かっていてああ言ったのだ。
「あれは、何というか…俺からの、個人的な願いというか…。とにかく、国のことではないんです」
「…願い…?」
 ミレーユは繰り返した。唐突すぎて、彼の言っていることがよく分からない。
「はい。というより、頼みかな…。つまり、俺以外の男と、あまり親しくなってほしくなかったんです」
 え、とミレーユは更に目を見開いた。
 とっさに言うべき言葉が思いつかず、ぱっと目を泳がせる。顔が赤くなるのが、自分でも分かった。
 ずいぶん前、まだ彼も自分もアルテマリスにいた頃、同じようなことを言われたことがある気がしたが、あのときは天然行為だと思っていた。今回とはわけが違う…。
 すっかりうろたえてしまったミレーユを哀れに思ったのか、彼はミレーユの返答を待たずに、言葉をつないでくれた。
「だから、今回のことはあなたのせいじゃありません。俺のわがままです」
 そう言ってリヒャルトは、寂しげではあるがようやく笑顔を見せた。
「あなたは俺との“約束”がなければ、彼ともう一曲踊っていただろうし…」
 話がそれてほっとしていたミレーユは、思わぬことを言われてはじかれたように彼を見上げた。
「ううん、断ったわ。だってあの次は、今夜最後のワルツだったでしょ。最後の曲はあなたと踊るっていうのも、約束のひとつじゃない」
 いくらミレーユでも、約束を片っ端から破ることはしないつもりだ。
 それに、彼にそう思われるのはなんだか嫌だった。
「ああ…、そうでしたね」
 急に凄まれてびっくりしたらしい彼は、けれどそれで何かをふっきれたように、明るい笑顔を浮かべた。
「じゃあ、もったいないことをしたな…」
 つぶやきは小さくて、一瞬、笑顔に気をとられたミレーユには聞き取れなかった。
「…え?」
「いえ…、何でもないです」
 それに首をかしげながら、けれどミレーユはようやく安堵した。
「それじゃあ、これで仲直りね」
 たしかめるように言うと、彼は笑って頷いた。ミレーユも、つられて笑顔を浮かべる。
 それを目を細めて見つめたリヒャルトは、つないだままの手とは別の、もう片方の手をさしのべた。
 戸惑うミレーユに、彼は安心させるように微笑んだ。いつもの、優しい微笑み。
「最後のワルツを。…私と踊っていただけますか?」
 明るい月と、湖面できらきらと踊る光の舞台で。
 彼を見上げれば、ぽっかりと満ちた月が見下ろしてくる。それに照らされる彼にみつめられて、ミレーユは胸の疼きをこらえて、はにかんだ。
「はい…喜んで」
 音楽もないのに、ふたりはゆっくりとステップを踏んで、軽やかに回った。

                      *

 一方、シアラン側の主賓が去った離宮では、華やかに宴がつづく大広間とは別の部屋で、修羅場のような図式が展開されていた。
「…じゃあきみは、ミレーユがエセルバート様の恋人って知っていて手を出したわけじゃないんだね?」
「それはそうですよ。私も、まさかシアランとの交戦を望んでなんかいませんからね。争いは避けるべきだという考えに、もちろん賛成ですし」
「ふうん?」
 見事な笑みを浮かべた金髪の少年は、凶器をくるくるともてあそびながら彼を流し見た。
 彼の視線の先の青年は、顔に笑みを貼り付けながら冷や汗を流している。
 最近爵位を受け継いだ彼は、アルテマリスでは女たらしとして一躍有名だった。同じく女の子の注目を浴びる存在である少年伯爵が、それを快く思っているはずもない。
 伯爵は、手にした凶器―もとい、晩餐用のナイフを器用に持ち替えて、いやにゆっくりと部屋を闊歩した。
「じゃあミレーユに手を出したのは、どうしてなのかな…もしきみが、シアランに敵意を持っていないとしたら」
 問いをつづける伯爵に、扉の前に立っていた父親の公爵が、おどおどと仲裁に入る。
「フ、フレッド、暴力はだめだよ、暴力は」
「いやだなあ、お父上。ぼくはまだ何もしてませんよ。…まあそれも返答次第ですけどね」
 シャンデリアの光を受けて、きらり、とナイフが光る。
 あわてたような子爵の目は、ふと扉の前でふるえる公爵に止まった。
 息子と違って気の弱そうな公爵は、扉の前で立ちふさがるにはびくびくしている。息子の殺気に、自分よりもさらに怯えているのだと悟って、子爵は内心ほくそ笑んだ。
「公爵様、私は先ほども申しましたとおり、シアランとの仲違いを望んでいるわけではないのです。彼女に近づいたのは、別にそういった政治上の下心があったわけではなく、ただ、お声をおかけしたかっただけでありまして」
 突然話を振られて、ベルンハルト公爵はうるんだ目を向けた。
「…というと?」
「美しい女性は賞賛されるべきものです。それに、まさかエセルバート様の想い人だとは思っておりませんでしたが、少なくともシアラン側の重要人物であることは察せられましたので、ここでお近づきになっておけば、アルテマリスとしても何かと有利なのではと思い…」
 公爵が乗ってきたので、つい夢中になって熱弁をふるっていた彼は、ふと周りの温度が一気に低下した気がして、目の前の公爵に目を戻した。
 公爵は先ほどとは違い、頭を垂れて小刻みにふるえている。
「公爵様…?どこか具合でも…」
「きみ…ミレーユに何をしたんだい?」
 え…、と子爵は口ごもった。どうにもおかしいことにようやく気づいたらしい。
 あわてて振り返れば、ナイフをもてあそんだまま机に腰掛けていたベルンハルト伯爵は、あーあ、やっちゃった、といって不敵に笑った。
「お父上のお怒りを買っちゃったね。こればっかりは、さすがにぼくにもどうしようもないよ」
 リヒャルトのときはミレーユのために止めたりもしたけど、きみのために止める理由はないしなあ…。伯爵はつぶやいて、人畜無害そうな笑みになった。
「ぼくが手を下すまでもなかったみたいだね。ぼくの可愛い妹と親友のためにも、きみには少し懲りてもらわないといけないから」
 彼は机から飛び降りた。
 そのまま、立ちつくす子爵の横を素通りして、わなわなとふるえている父親に近づく。
「フレッド、それを貸したまえ。彼には私から、じきじきに話があるからね」
 近づいてくる息子に気づいたエドゥアルトは、あやしげな笑みを浮かべながらフレッドの手にあるナイフを指さした。
「いや、これをお父上に渡すのは、さすがに危ないよ」
 フレッドはひょい、とそれを血走った目から隠して、自分は扉を背にして壁にもたれかかった。
「心配しなくても、彼は逃げられないよ。ぼくがここにいるからね。だから存分にお説教なさるといいよ、お父上」
 狂気じみたふたつの笑顔に見つめられ、子爵はどうにもできずにその部屋に座り込んだ。


 満月の清らかな光は、恋人たちにも、異常な団結を持った家族たちにも、哀れな者たちにも、等しく降り注いでいた。
 夜も更けていき、大広間で行われている宴の賑わいは、盛りを迎えていた。

posted by 聖火 at 17:02| Comment(13) | 二次創作・身代わり | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
早速来ちゃいました。
わーい。すごく素敵なお話だあ❤

そしてホントはパパは恐ろしかったのか(笑)。

また書いていただきたいです


Posted by 桔梗 at 2009年09月10日 18:02
すみません、前回急いで書いちゃったからもう一回ゆっくり書きます。
すごく素敵なお話だと思います! みんなラブラブですね。

そしてフレッドの恐ろしい部分?がパパ譲りというのになんかみょーに納得してしまいました。
ジュリア譲りじゃなかったのか(笑)。

ジュリアさんといえばミレーユがシアランへ行ってからジュリアさんってまだグリンヒルデにいるんでしょうか?
なんか気にしてます(笑)。
パパたちも結婚しないかなって。

またきますね。
次回作も期待してます。
Posted by 桔梗 at 2009年09月11日 10:08

>桔梗様

コメント有り難うございますv

パパのミレーユに対する執着は、フレッドに受けつがれてるなあ、と思っていたらこうなってしまいました(笑)
子爵さんは、最後にリヒャルトに脅されても良いとは思ったんですけど…、今回は、折角なのでお兄ちゃんたちを書きたくて…^^;

>ミレーユがシアランへ行ってからジュリアさんってまだグリンヒルデにいるんでしょうか?

あ、それ私も実は気になってました!
たしかに、結婚したら嬉しいですね!!v

それから、間違えてパパ宛に送ったと思われる、本物の『果たし状』に、パパがどういう反応を示したのかも気になります…。
乗り込んでこないところを見ると、ジュリアあたりが止めてるのかな?と勝手に思ってます。
エドゥアルトの暴走を止められるのはジュリアだけな気が…(笑)

Posted by 聖火 at 2009年09月12日 13:11
こんばんは。
早速、『身代わり伯爵』創作、
第二弾を拝読させて頂きました!

リヒャルト以外の男性と二人っきりになるミレーユ。
しかもそれをリヒャルトに見られる・・・。
なんて美味しいシチュエーションなんでしょう(笑)!
嫉妬するリヒャルトに萌えさせていただきました。
シアラン編後の結ばれた設定という、
幸せいっぱいの今作もニヤニヤが止まらなかったです!

そういえば、ミレーユは何て言ってダンスを断ったのでしょうか。
ミレーユのかわしのテクが気になりました(笑)。

かなりの長編、読み応えたっぷりでした!
次回作も楽しみです。
ありがとうございました!
Posted by sakura at 2009年09月13日 01:38
聖火さま。

あ!!そうか、「果たし状」家か!!
あたし、すべてごっちゃになってあちこちバラバラに行っちゃったかと思ってましたよ。

あと気にしてるのが王立図書館の司書! まだ出てきてない……。
青い百合はきっと大公かなーと思います。

あたしはついでにジュリアさん妊娠してたら面白いなーと。
だって16・17とかで双子生んでるでしょ?!
34歳ならまだまだ大丈夫だ(笑)。頑張ってほしい。
もう一回双子……は大変そうだけど。

あんまり脅すリヒャルト見たくないので(笑)、パパとフレッドで適任ですよー。

次回作もとっても期待してます。

あ、ブログにリンクを貼らせていただいてもよろしいでしょうか?
Posted by 桔梗 at 2009年09月13日 02:53
二作目も楽しく読ませていただきました!聖火さまのミレーユは一生懸命で可愛いですね♪大好きです。リヒャルトもミレーユ大大大好きなのが伝わってきて、にやにやしてしまいます。

今回もきゅんきゅんするリヒミレをありがとうございました(^▽^)
Posted by 相馬つかさ at 2009年09月13日 04:02
>sakura様
有り難うございます!
「満月」をモチーフに書こうと思い立ったときは、蒼月の夜這いの一件(笑)について書こうと思っていたのに、いつの間にかこういうシチュエーションになっていました…。

かわしのテクですか!?私もシェリーおばさまに教えてほしいです…たぶん今回のは珍しくまともだったはず(笑)(私の場合、使うときはないと思いますが…;)

だらだらと長い駄文を読んでくださってありがとうございますv
次作もがんばります!



>桔梗様
あれ、違いました…?;
すみません、勝手に家かなぁと…だったら面白いなと思いこんでました(笑)

あああ!!王立図書館の司書ですか?すっかり忘れてました…><。
確かに、気になる要素いっぱいですねv

それとってもいいですねっ!フレッドとミレーユの妹弟…きっと彼らもミレーユラブになるに違いないですね(笑)

リンク貼ってくださるんですか!?嬉しいですv
こちらからも相互リンクさせていただきますね!


>相馬様
有り難うございますv
私のミレーユは、一生懸命というか、あまりに奥手(?)で…いつも逃げ腰なのでいちゃいちゃさせるのになぜか苦労します…><。
リヒャルトがミレーユ命なのは、『失恋』以来、私の中で絶対になってしまってますw

こちらこそ、無駄に長い駄文におつきあいいただき有り難うございました^^
次もがんばります!!
Posted by 聖火 at 2009年09月17日 20:27
聖火さま

リンク貼らせて頂きました。
ありがとうございます。

いえ、手紙はきっと家と果たし状だけですよ、入れ替わってるの……。あたしが馬鹿なだけで(笑)。

「告白」の表紙、アマゾンで見ました。
あたし、表紙に関してはすごい勘違いをかましてるんですよ。今度ブログに書きますが。
ので表紙はノーコメント!
素敵な表紙でした!
Posted by 桔梗 at 2009年09月18日 02:51
>桔梗様

リンク確認しました!有り難うございました♪
こちらからも貼らせて頂きました^^
有り難うございます。

馬鹿だなんてとんでもないです;
私なぞ、王立図書館の司書様を忘れてましたよ…。
しかも、シアラン王室の構成が未だによく分かってません…正直、家系図がほしいです(笑)

私も表紙見ました!
毎回素敵な表紙ですよねv
リヒャルトがいないのが少し寂しいですが、団長とフレッドがいたので満足です♪(笑)

Posted by 聖火 at 2009年09月19日 16:52
こんばんは。
家系図……。
The Beansに簡単に載ってましたが。

第八妃アリス
‖━ジェラルド

第五大公ハロルド(故)━男子(故)━サラ(故)・ウォルター伯

‖━第六大公エドモンド(故)

正妃マージョリー(故)


正妃クラウディーネ(故)

‖━エセルバート
‖━マリルーシャ
第六大公エドモンド(故)━エルミアーナ・他公女2人 ・アゼルレイド他 公子3人・ギルフォード

大公妃アリス 他妃四人

ギルフォード(現大公)


うまく載るかな? うまくかけなくてごめんなさい。でも一応確認してすごく苦労した(笑)。
こんな感じでした。
っていうか、爺様のお妃と結婚ってどうよ。
自分の子どもより若いお妃ってどうよ。
シアラン王室突っ込みどころありすぎです。
Posted by 桔梗 at 2009年09月20日 02:52

>桔梗様
わぁぁ〜家系図!!
すっごくうれしいです!有り難うございます。
え…ギルフォードってそんなだったんですか…意外…。
ますます、そんなところにミレーユを嫁がせるわけにいかないですね。ジークのほうがましと言った彼の気持ちが分かる…(笑)

なんとなく、大公妃アリス様が気になります。
味方になってくれないかなぁ…;
Posted by 聖火 at 2009年09月23日 11:14
ものすごく遅いコメントで申し訳ないのですが、第二弾とっても面白かったです!
 それから、全開のコメントに丁寧なコメ返していただいて、ありがとうございました^^
 
 リヒャルトのやきもちに全然気づいてないミレーユが雰囲気でていて良かったです!
 リヒャルトの
「はい。というより、頼みかな…。つまり、俺以外の男と、あまり親しくなってほしくなかったんです」
 のとこのセリフすっごい好きです(((え
 
 その後のフレッドとお父様もよかったです!
 あーゆーところ、まさしく身代わりですよね^^
 
 では、今回も素敵なリヒミレご馳走さまでした★
 また楽しみにしてますね〜ノシ
Posted by riri- at 2009年09月25日 23:40
>riri-様
お返事が遅れてしまい、申し訳ありません;

いえ、こちらこそ、こんな駄文にいつもコメント有り難うございますv

> リヒャルトの
「はい。というより、頼みかな…。つまり、俺以外の男と、あまり親しくなってほしくなかったんです」
 のとこのセリフすっごい好きです(((え

気に入っていただけて光栄ですv
リヒャルトは絶対に心の狭い夫になると思います(笑)

ですね^^
身代わりはパパとフレッドの狂いっぷりが素敵ですw

次回もがんばります!有り難うございました。
Posted by 聖火 at 2009年10月07日 18:09
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